あらすじ
もし、人間が持つ最も個人的なもの――「記憶」が、実は個人に属するものではなかったとしたら?
想像してみてください。この世界では、記憶は空気中を漂う微細な粒子、あるいは特定の周波数で響く「旋律」のようなものです。人々は無意識のうちにそれを呼吸し、受信することで、自らの過去を形成している。
あなたが覚えている幼い頃の誕生日、初恋の甘酸っぱさ、家族との夕食の風景――それらは本当に「あなた」のものでしょうか?
それとも、遠い過去に生きた誰かの記憶の断片を、偶然受信してしまっただけなのかもしれません。
この世界には、ごく稀に、その「記憶の旋律」を聴き分けることのできる者がいます。彼らは“調律師”(チューナー)と呼ばれています。
主人公はその一人。
他人の頭の中に流れ込む偽りの記憶を「調律」し、精神の不調を治すことを生業としている彼のもとに、ある日、奇妙な依頼が届きます。
依頼人は、国の最高指導者。内容は――
「国民全員から、ある特定の一日の記憶を、誰にも気づかれずに消してほしい」というものでした。
なぜ、その一日を消さねばならないのか?
その日に一体、何が起こったのか?
調査を始めた主人公は、やがてこの世界の根幹を揺るがす恐るべき真実に辿り着きます。
人々が「歴史」と信じているものは、過去の偉大な調律師たちによって“作曲”された壮大な物語であり、
私たちはその旋律を奏でるだけの“演奏者”に過ぎないのかもしれない――。
そして彼は気づくのです。
自らが消そうとしているその一日の記憶の中にこそ、人類が本当に経験した、唯一無二の「真実」が隠されていることを。