あらすじ

地球が悲鳴をあげていた。 排気ガス、プラスチック、放射性廃棄物——人類が積み重ねてきた文明の残骸は、もはや地球という惑星の自浄能力を完全に超えていた。科学者たちは警告を発し続けた。政治家たちは会議を重ねた。だが、誰もが知っていた。もう手遅れだと。 そして人類は、究極の選択をした。 「グレート・トランスファー計画」——それは人類史上最大の実験だった。全人類の意識を、巨大な量子コンピュータネットワークに移植する。肉体を捨て、デジタル世界に移住する。その間に地球を休ませ、何百年、何千年かけても元の姿に戻す。 計画は成功した。 七十億の意識が、光の速度で新しい世界へと転送された。機械の中で目覚めた人々が最初に見たのは、製作者たちの遊び心が詰まった世界だった。まるでゲームのような世界。レベル、経験値、スキル、アイテム——かつて人類が娯楽として楽しんでいたシステムが、新しい現実として彼らを迎えた。 無限に広がる大地。自由にカスタマイズできるアバター。魔法のような能力。人々は最初こそ戸惑ったが、やがてこの新しい世界を受け入れ、楽しみ始めた。 そして地球は、静かに再生を始めた。 人類の喧騒が消えた惑星で、森は広がり、海は浄化され、空気は澄んでいった。幾千年が過ぎ、幾万年が過ぎ—— ついに、地球は元の美しい姿を取り戻した。 再移住計画が発動された。機械世界の人々は歓喜した。ついに帰れる。本当の大地を踏みしめられる。本当の風を感じられる。 だが、その時。 現実からの通信が途絶えた。 調査のためのロボットが送られた。そして彼らが発見したのは、無残に破壊された施設だった。いくら丈夫な素材とはいえ長い年月による劣化には勝てなかった。メンテナンスシステムの故障。バックアップ電源の枯渇。 七十億の肉体は、すべて失われていた。 戻るべき体は、もうどこにも存在しなかった。 こうして人類は、自ら作り出した機械の楽園に、永久に囚われることになったのだ。

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カクヨム
カクヨム2025/11/13
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