あらすじ
桜井美羽(さくらい みう)は、視覚支援学校に通う高校二年生。小柄でポニーテールがよく似合う、明るく可愛らしい少女だ。
彼女は幼い頃に視力を失い、今では光の明暗をわずかに感じる程度しか視えない。
白杖を頼りに点字ブロックを踏みしめながら歩く日常は、彼女にとって当たり前の風景であり、同時に挑戦の連続でもあった。
そんな美羽の通学路に、ある日突然トラックが停まっていた。
歩道を塞ぐその車両の前で戸惑う美羽に声をかけてくれたのが、若い男性スタッフの藤堂翔(とうどう しょう)だった。
彼は「Next Hold」という新しいクライミングジムのスタッフで、搬入作業のためにトラックを停めていたのだ。
藤堂は美羽を安全に誘導しながら、ジムのことを楽しそうに話してくれた。
「ここにクライミングジムができるんですよ」
「えっ?クライミングジム?」
「はい、壁を登るやつです」
見えない美羽にとって「壁を登る」という言葉は、想像もつかない世界だった。
だが藤堂の「登れますよ!」という力強い言葉に心を揺さぶられ、彼女は思わず「私でも登れますか?」と問いかけていた。
藤堂は笑顔で「もちろん!」と答え、オープンの日に体験に来るよう誘ってくれた。
その日から、美羽の胸には小さな期待が芽生えた。
視えなくても登れるのだろうか。危なくないのだろうか。けれど、もし登れたらきっと楽しいに違いない。そんな思いを抱きながら、彼女は家路についた。