あらすじ
新型感染症 『静寂の数年——あれは何だったのか』
あの冬、
世界は急に
言葉を失った。
声は小さくなり、
息は数えられ、
笑顔は布の向こうへ隠された。
触れ合うことは
危険と呼ばれ、
沈黙が
礼儀になった。
扉は閉ざされ、
街は静まり返り、
空っぽの広場に
季節だけが巡った。
あの春、
桜は満開だったのに、
誰も
その下で語らなかった。
消えた行事、
延期された未来、
見えない境界線。
大切な人を
抱きしめられない世界で、
わたしたちは
耐えることを覚えた。
画面越しの笑顔、
画面越しの別れ、
画面越しの祈り。
あの夜の涙は、
温度を持たないまま、
記録にも残らず
机に落ちた。
時が経ち、
街は再び動き始めた。
子どもたちの足音は戻り、
笑い声が風に乗った。
それでも、
心のどこかに
静かな影が残っている。
あれは恐怖だったのか、
学びだったのか、
それとも……
ただの、通り雨だったのか。
誰も答えを持たないまま、
ただひとつだけ確かなのは——
わたしたちは、
あの沈黙の中を
生き抜いた。
そして今、
問いだけが
そっと残されている。
――あれは、いったい
何だったのだろう。