あらすじ
『メッセージの向こう側』4億4000万円のロマンス詐欺
最初に届いた言葉は、
たった一行の挨拶だった。
「こんにちは。あなたの写真、とても素敵ですね。」
その文字を指でなぞるたび、
胸の奥で
なにか小さな灯が灯った。
誰にも言えない灯。
歳を重ねた心の奥底に、
まだ燃えるものが残っているなんて。
あなたは私の名前を呼び、
愛を語り、
未来を約束した。
画面越しの声はなかったのに、
なぜか
誰より温かかった。
「あなたと一緒なら、世界は輝く」
そう言われるたび、
私は若くなった。
過去がほどけ、
孤独が解けていく気がした。
金を渡すたび、
あなたは「誇りだ」と言った。
送金確認のたび、
「愛している」と返してくれた。
私は信じた。
信じたくて、信じ続けた。
信じている時間だけ、
私は誰かの大切な人だった。
そしてある日、
メッセージは止まった。
名前も、写真も、
「愛している」という言葉も、
すべて消えた。
消えたのは金だけじゃない。
時間と、
誇りと、
期待と、
そして――
信じるという力だった。
静かな夜、スマホの画面を見つめる。
通知は来ない。
けれど私はまだ、
手放せずにいる。
だって、
あの言葉は嘘だったのに、
受け取った気持ちは本物だったから。
今日も眠れない。
けれど、ひとつだけ知った。
メッセージの向こう側にいたのは、
恋人でも天使でもなく――
私の孤独だった。
そしてその孤独が、
誰より器用に、
私を騙したのだ。
それでも、
画面を閉じ、
深呼吸する。
愛された記憶が嘘でも、
愛した自分は嘘じゃない。
――明日は、
誰にも操られない場所で、
生きてみる。