あらすじ
『婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で幸せになったので
今さら戻れと言われても遅すぎます』
ドレスの裾に絡んだ
侮蔑と嘲笑のざわめきは
もう遠い昔の出来事。
シャンデリアの光は眩しかったけれど、
私はそこで、一度も呼吸を許されなかった。
「地味だ」
「ふさわしくない」
「お前じゃない」
そう言われるたびに、
心は削られ、
声は飲み込んでいった。
でもね――
追放は終わりじゃなかった。
あの日、閉ざされた扉の向こうに
私の生きる世界は、ちゃんと待っていた。
風の匂いは土の匂い。
剣を研ぐ音と、子どもたちの笑い声。
火を囲む夜の静けさが、
なにより暖かかった。
私はそこで初めて、
役割ではなく
“私自身”を必要とする人たちと出会った。
あの王都の光より、
ここで交わす「ありがとう」が
ずっと眩しい。
だから――
今さら膝を折られても、
涙を落とされても、
私の心はもう戻らない。
だって私はもう知ってしまったから。
居場所とは
生まれつき決められるものじゃなく、
選び、選ばれ、
手を伸ばし、伸ばされて
築かれるものだって。
振り返る必要はない。
遠く遠く置き去りにした
あの燃え尽きた城の影に向かって
そっと言葉を落とす。
「私を欲しいのではなく、
私を理解できる世界へ。
――だから、もう遅いの。」
そして私は今日も歩き出す。
杖はいらない。
涙もいらない。
後悔を胸にしまう必要さえない。
だってこの道は、
誰かが与えたものではなく
――私が選んだ未来なのだから。