あらすじ

この世界では、「高強度感情記憶の譲渡」……すなわち「後悔」の売買が合法化されている。人々は耐え難い記憶を「記憶結晶」として売り、苦痛から解放される。 アキラは「中央記憶管理局・後悔買取センター」の査定士。彼は、他人の人生の分岐点に淡々と値札をつける虚無的な日々を送っていた。彼の目は曇りガラスのようで、感情が表面に届かない。彼自身もまた、5年前に人生最大の後悔を売った一人だったからだ。 彼は恋人ミサキを事故で失った。あの日、仕事の苛立ちから、出かける彼女を冷たく突き放し、引き止めなかった。『あの時、引き止めていれば』。そのSSレベルの後悔を売却した日、彼は絶望から解放された。だが代償に、彼女をどれほど愛していたかの実感さえ失い、心に「穴」が空いた。彼は虚無を埋めるため、他人の強烈な後悔に触れるこの仕事を選んだ。 ある日、小柄な老婆チエが「後悔」を売りに来る。それは50年前、雨の日に傘をくれた学生に「ありがとう」と言えなかった、という些細なものだった。アキラは「市場価値ゼロ」と事務的に告げる。だが、チエは「お金にならなくても、誰かに覚えていてほしかった」と涙ぐむ。アキラは、その純粋で温かな痛みに心を揺さぶられ、初めて規定を破り、その記憶を「保管」として引き取る。 それは奇妙な救済だった。自分の愛の記憶を、他人に預ける。アキラはそれを受け入れた。 翌日、アキラはセンターに辞表を出す。彼の目はもう曇りガラスではなかった。彼はチエの「ありがとう」の記憶結晶をポケットにしまい、センターを後にする。 ミサキの記憶はない。だが、彼は知っている。自分は命懸けで誰かを愛したのだ、と。そして、その証拠をユイが守ってくれている。 アキラは、価値ゼロとされた「ありがとう」の温もりを胸に、「今」を生きるために歩き出す。

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エブリスタ
エブリスタ2025/11/15
  • 現在の作品【小説】リグレット・バザールにて