あらすじ
郊外に取り残された実験棟。目を覚ました黒川凛は、見知らぬ男女十二人と共に、窓のないコンクリートの部屋に閉じ込められていることに気づく。金属製の扉の向こうには「ガス処理室」と書かれた分厚いドア。天井には無機質な監視カメラと、低いノイズを垂れ流し続ける排気口。
やがてスピーカーから機械音声が流れる。「安全が確認されるまで、被験者十三名はここで待機してください」。その夜、消灯と同時にノイズが変質する。ざらついた音の奥に、はっきりとした「名前」が紛れ込んだ。翌朝、名を呼ばれた青年が、密閉されたガス室で息絶えて発見される。
偶然か、演出か、それとも殺人なのか。恐怖と疑心暗鬼のなかで、理系の大学院生・高科颯太はノートPCの簡易解析でノイズを録音し始める。音声波形を比較した結果、驚くべき事実が浮かび上がる。「ノイズに混じっている“声紋”が、生存者たち自身のものと一致している」のだ。
誰も「殺せ」と命じた覚えはない。ただ、心のどこかで「消えてほしい」と思ったのかもしれない。ノイズはその無意識に反応し、「最も強く憎まれている名前」を選び出し、ガス室の標的として宣告する装置だった。生き残るためには、互いを憎まないしかない。しかし、十三人それぞれの過去と罪が暴かれていくにつれ、「誰も憎まない」ことはほとんど不可能だと知る。
残り人数が減るほどにノイズは明瞭になり、名前は長く、はっきりと聞こえるようになっていく。生存者たちは集団カウンセリングのように互いの罪を告白し、憎しみを手放そうともがくが、その行為すら「実験データ」としてノイズに吸い込まれていく。
最後に選ばれるのは、たった一つの「最適解」。だがその夜、排気口から流れたのは、誰か一人の名前ではなかった。十三人全員の声が重なった、言葉にならないノイズだった──。