あらすじ
東京で大学生活を始めたばかりの祐樹は、5月連休に会いに来る恋人・るみとの再会を楽しみにしていた。しかし、当日の朝、スマホも時計も止まり、テレビも街の風も人の動きもすべてが静止する“不可解な時間停止”を経験する。世界は数分後に動き出すが、停止前後で時刻は同じ「8時25分」。祐樹は大きな違和感を抱えたまま東京駅へ向かった。
ところが、到着した新幹線ホームにるみの姿はない。かわりに、街中で「るみと一緒にいる見知らぬ男」を見つけてしまう。動揺する祐樹は、ふたりの後を銀座、表参道、原宿と必死に追うが、男の顔はぼやけて見えない。やがて原宿のクレヨンハウスの地下カフェで追いついた祐樹は、男に声をかける——その顔は“自分自身”だった。
世界がひずみ、空気が裂けるように震えた後、もうひとりの祐樹は姿を消す。その直後に戻ってきたるみは、何事もなかったように自然で、時間停止にも偽りのデートにも心当たりがない。混乱のまま、東京駅へ向かうふたり。そこで再び地震に似た衝撃が走り、世界は二度目の“時間停止”を起こす。
音が消え、人々が固まり、空気は粘つく。世界が動き出したとき、るみは姿を消していた。そして——祐樹の前には、再び“もうひとりの祐樹”が現れる。
だが次の瞬間、世界が白くはじけ、時間は「午前9時45分」に巻き戻っていた。るみは無事に現れ、以前の自然な笑顔のまま。消えた自分。現れた自分。追いかけたるみ。止まった時間。巻き戻された現在。
祐樹は、収束した“今日”の中で、ただ静かに彼女の手を握るのだった。