あらすじ
中堅食品卸会社で営業課長を務める坂口修一(四十二歳)は、人生に鬱屈していた。出世コースから外れ、二年前に妻・聡子と離婚。娘・美咲との関係もぎこちない。彼の心の奥底には、大学時代、演劇サークルのマドンナだった片瀬真理子への「もしも、あの時告白していたら」という二十年来の後悔が澱のように溜まっていた。
ある雨の夜、修一は『伊月(いづき)文具店』という見知らぬ店に迷い込む。そこで「人生の『誤字』を修正できる」という不思議な修正テープ『アゲイン・テープ』を手に入れた。
半信半疑のまま、修一は大学の卒業アルバムに写る自分にテープを使い、「真理子に告白する」という過去の行動を修正する。
目覚めた世界で、彼は真理子と結婚し、仲間と劇団を立ち上げるという夢を追いかける人生を送っていた。しかし、それは理想とは程遠い、金銭苦に喘ぐ日々だった。真理子は夫の夢のために自分の夢を諦め、パートに追われていた。元の世界でエリート商社マンと結婚した彼女の方が幸せだったのではないか、と修一は愕然とする。
彼は再びテープを使い、「演劇サークルではなく、法学研究会に入る」という、より根本的な選択を修正する。
次に目覚めた世界で、修一は高級マンションに住む、成功した弁護士になっていた。金も地位も手に入れたが、その代償は大きく、他人を蹴落としてきた彼の周りには誰もいない、孤独な人生だった。
そんなある日、彼の事務所に離婚調停の依頼人として、聡子(この世界では修一とは無関係)が訪れる。彼女は夫から「女が出世すると、ろくなことがない」と心無い言葉を浴びせられたという。それは、かつて最初の世界で、聡子の昇進を素直に喜べなかった修一が、彼女に放った言葉とまったく同じだった。
修一は、自分の人生が決定的に狂ったのは、大学時代の選択ミスではなく、一番身近な妻の努力を、小さなプライドから素直に「おめでとう」と祝えなかった、あの瞬間の「誤字」だったと痛感する。
修一は、最後の修正を行う。「聡子の昇進を、素直に『おめでとう』と祝う」。
目覚めると、そこは元の世界のかび臭いアパートだった。しかし、離婚したはずの聡子と美咲が、当たり前のようにそこにいた。昨夜、彼が心から「おめでとう」と伝えたことで、離婚という「誤字」が修正された、幸せな「今」がそこにあった。