あらすじ
愛知県常滑。焼き物の町として知られるこの土地で、古くから水道工事店を営む北野家。大学生の祐樹は、父の手伝いで訪れた団地の修理先で、八十代の女性・北野芳江と出会う。彼女は、祐樹の祖父・秀雄とともに、かつて“おしりを洗うトイレ”の開発に携わった人だった。
時は昭和四十年。知多製陶の若手技術者・秀雄は、上司の阿部課長とともに、前代未聞の試みに挑んでいた。それは、「温水でおしりを洗う」清潔なトイレ――後に“サニタリーノ”と呼ばれる日本初の温水洗浄便座の原型だった。だが実験は失敗の連続。熱湯を浴び、笑われ、試作品は何度も壊れた。それでも秀雄は諦めなかった。工場で出会った事務員・芳江の励ましと、阿部課長の信念に支えられながら、彼はただひたすら理想を追い求めた。
やがて絶望の夜、秀雄は一本の「車のアンテナ」を手にして閃く。伸縮構造をノズルに応用することで、夢の装置はついに完成。新型“サニタリーノⅡ”は発表と同時に注目を集め、清潔な暮らしの象徴となった。しかし栄光の陰で、開発者たちは数えきれぬトラブルや修理に奔走し、現場で汗を流し続ける日々を送る。
やがて秀雄と芳江は結婚し、常滑に戻って工事店を継ぐ。時代が移り、トイレは誰もが使う日常の道具となった。だが、どんな時も二人の心には「恥を科学に変える」という阿部の言葉が生きていた。
半世紀後、祖父母の遺した工具を手にする祐樹。修理中にふと聞こえた水音――“カピン”という小さな音が、まるで祖父からのメッセージのように響く。過去と現在が静かに重なり、技術と魂が受け継がれていく。
笑いと情熱、そして家族の絆を通して描かれる、
――日本の清潔革命を生んだ人々の物語。