あらすじ
父と進路をめぐって言い争った夜、少年〈のぶくん〉は、家の地下で偶然見つけた「トンネル」の扉を開ける。
その先には、昭和の夏が広がっていた。
ちゃぶ台のある家、ランニング姿の父親、蚊取り線香の匂い。
どこか懐かしく、しかし現実とは違う世界。
のぶくんは、そこに自分と同じ名前を持つ少年や、優しい母に出会い、時間の輪の中に迷い込んでいく。
季節が変わり、のぶくんは“りっくん”として中学生になっていた。
友人たちと笑い合い、淡い初恋を経験しながら、
「人を笑顔にできる喜び」を知る。
やがて卒業式の日、体育館の床の下で再び“トンネル”を見つけた彼は、
ふとした拍子にその中へ入り込み、光の奥へと消えていく。
次に目を覚ましたとき、彼は大学生“福ちゃん”となっていた。
漫画や映画を愛し、仲間と同人誌を作る日々。
創作の喜びと焦りの狭間で、自分の進むべき道を模索する。
時代は昭和から平成へ。
やがて彼は社会人“よしお”として、製陶会社の便座開発に携わり、
現実の中で「夢を形にすること」に向き合っていく。
人との出会い、別れ、恋、そして仕事。
そのすべてが、あのトンネルの延長線上にあることを、彼はまだ知らない。
年月を経て、“新藤”と名を変えた彼は、映画会社の若手宣伝マンになっていた。
熱狂する観客、監督の言葉――「アニメは未来をつくる」。
その瞬間、群衆の光に包まれながら、彼は悟る。
過去も未来も、トンネルの向こうでつながっている。
そしてある夜、再び生家へ戻った彼は、
地下室の錆びた扉を開き、もう一度あのトンネルを歩き出す。
その先で出会ったのは、麦わら帽子をかぶった小さな少年――幼い日の“のぶくん”だった。
「この家の下にはね、トンネルがあるんだよ」
少年の言葉に、彼は微笑む。
光に包まれながら、彼は静かに理解する。
トンネルとは、時間を越えて自分と出会う場所。
人生そのものがひとつの往復の旅なのだと。
朝の光の中、彼はゆっくりと歩き出す。
トンネルの向こうには、まだ見ぬ“ぼく”が待っている。