あらすじ
この世界では、人々は生まれながらに「Dom(支配者)」か「Sub(服従者)」のいずれかに分類される。それは魂の根源的な形であり、性格や育ちでは覆せない運命だ。Subである西口知也は、その本能に抗い「自分より弱い者には従わない」という強いプライドを持ち生きてきた。しかし、Subと知られてから周囲の態度は変わり、抑えきれない焦燥と苛立ちを抱えていた。
そんなある日、大学構内でぶつかった見知らぬ男と喧嘩になり、生まれて初めて打ち負かされる。その男――東間孝仁の、鋭く冷たい視線と、圧倒的な力を持つ拳の衝撃は、知也の世界を一変させた。殴られた痛みよりも、負かされたという事実、そして彼の持つDomとしての「圧」に、知也のSubとしての本能が激しく反応したのだ。
負けて以来、知也は「命令されたい」「支配されたい」という抗いがたい欲望に突き動かされる。プライドが邪魔をして縋ることはできないものの、知らず知らずのうちに孝仁の情報を集め、彼の姿を探すようになる。孝仁が工学部3年の東間孝仁だと知った知也は、偶然を装って彼の近くに現れるが、孝仁は知也の存在にまるで気づかない。この屈辱が、知也の執着をさらに燃え上がらせた。
ある日の大学の帰り道、知也は意を決して孝仁に声をかける。
「……おい、てめえ」
しかし、孝仁は知也のことも、以前の喧嘩のこともほとんど覚えていなかった。その無関心さに苛立ちながらも、知也は本題を切り出す。
「てめえ、Domだろ…? 俺と、疑似パートナーにならねえか?」
それは、Subとしての本能的な渇望と、プライドを守りたいという抗いがたい気持ちが生み出した苦肉の策だった。知也は「互いにストレスを発散するための一時的な利用」だと提案し、体裁を保とうとする。孝仁は訝しみながらも、知也の自宅アパートへと同行する。
部屋に入ると、知也は孝仁の本名が東間孝仁であることは知っていたが、知らないフリをして問いかけ、名前を交換する。そして、「とりあえず、なんか命令してみろよ」と挑発する。
孝仁は静かに一言。
「俺に――『命令すんな』」
その一言で、知也の身体は本能的に反応し、背筋に電流が走る。続く「『来い』」「『座れ』」という短い命令にも、知也は抵抗なく従ってしまう。そして、孝仁の「ああ、…『いいこ』だ」という言葉を聞いた瞬間、知也の胸の奥が熱くなる。これこそが、彼が心底求めていたものだった。
孝仁は、真面目にセーフワードの必要性を説く。知也は拒絶されるのが嫌で、何をされてもいいと主張しつつも、迷った末に孝仁のファーストネームである「たかよし」をセーフワードに設定する。