あらすじ
曇天の上野動物園で起きる人間ドラマを書くオムニバス短編集です。全5話。
第1話「パンダ・パンチ」
とある真夏の昼下がり、上野駅公園口近くの野外カフェでコーヒーを飲んでいた私が目撃したのは、二十歳を過ぎたばかりの一人娘が私と同じ年ぐらいの中年男と手を繋いで上野動物園に向かう姿だった。不倫にしろ、単なる年の差カップルにしろ、父としてこれを見過ごすことは出来ない。理由あって二人の前に出られない私は、こっそりと尾行を開始する。
第2話「となりのアライグマ」
僕の友達、山崎優羽は変なやつだ。いつでもどこでも手を洗わずにはいられない。学校行事中でもおかまいなしにいきなりいなくなり、どこかの洗面台で一生懸命に手を洗っている。そんな優羽を呼び戻すのは「山崎係」である僕の仕事。遠足で訪れた上野動物園。絶対にいなくなるんだろうなあという予想通りにいなくなった優羽を探して、僕はクラスのみんなから離れて近くのトイレに向かう。
第3話「獅子の仔、仔獅子」
男の子が生まれると分かったその時から、俺は息子の名前を「怜央(レオ)」にすると決めていた。雄々しく、気高い、百獣の王。だけど俺が名前に込めた想いとは裏腹に息子は気弱で内向的な子どもに育ち、家族ぐるみで付きあいがある同年代の子にはやられっぱなし。俺の家族と、その子の家族と、孫かわいさでくっついてきた俺のオヤジで出かけた上野動物園でも案の定、俺は他人の子に虐げられる我が子を延々と見せつけられてイライラを募らせる羽目になる。息子よ。少しは自己主張してくれ。頼むから。
第4話「メガネザル・ダンディ」
わたしのパパはわたしが小さい頃に死んじゃって、それからわたしはずっとママと二人きり。だけど中三の六月、ママが恋人を家に連れてきた。ゴリラみたいなパパとは全然違うメガネザルみたいな男の人。その人はどんどんわたしの生活に入り込んで、とうとうわたしとわたしの彼氏とママとその人で上野動物園でダブルデートすることになっちゃった。控えめに言ってありえないんですけど。マジで。
最終話「にんげんっていいな」
ぼくは、ばかです。「ちえおくれ」らしいです。おとうさんと、おかあさんと、くろねこのクロといっしょにすんでいます。おとうさんとおかあさんはとてもなかがわるいです。あと、クロはねこだけどしゃべります。でもぼくとしかしゃべりません。ある日、おとうさんとおかあさんがけんかをしているとき、クロが「家出しよう」といいました。ぼくとクロはいえでをして、まずはすぐちかくの『うえのどうぶつえん』にいくことにしました。