あらすじ
「ユリアンナ! 僕は、僕は『真実の愛』を見つけたんだ! 君との婚約は破棄させてもらう!」
王立学園の卒業パーティー。公爵令嬢ユリアンナは、婚約者である侯爵令息ヴィルフレッドから、高らかに婚約破棄を突きつけられた。ヴィルフレッドの隣には、潤んだ瞳で彼に寄り添う子爵令嬢の姿が。
「悪かったな! 君との婚約は、どうせ政略だ! 義務でしかなかった!」
「……ヴィルフレッド様」
騒然とする周囲をよそに、ユリアンナは一切動じない。彼女は、次期公爵として法務と経済学を徹底的に叩き込まれた「契約(ビジネス)の鬼」。恋愛ごっこに現を抜かす愚か者とは、脳の構造が違う。
彼女は小さなため息ひとつで感情を処理すると、パーティーバッグから一枚の羊皮紙を取り出した。
「婚約破棄、承知いたしました。つきましては、お二人の間で交わされた『婚約契約書』第38条【貞操義務違反および一方的な破棄に関する違約条項】に基づき、ヴィルフレッド様のご実家、クレメント侯爵家の全財産を違約金として請求いたします」
「なっ!? は、払えるわけがな――」
ヴィルフレッドが嘲笑おうとした瞬間、ユリアンナの背後に控えていた従者――アルブレヒトが静かに一歩前に出た。
「――旦那様。ご心配には及びません」
常に無表情でユリアンナの影に徹するアルブレヒト。彼こそが、ユリアンナの指示を先読みし、水面下であらゆる実務と暗躍をこなす「有能すぎる」従者である。
「たった今、クレメント侯爵家が保有するすべての資産、領地、銀行口座の差し押さえが完了いたしました。もちろん、ヴィルフレッド様が『真実の愛』のお相手と密会するために利用した別荘(・・)も、ご学友の皆様にサインいただいた『連帯保証書(・・)』も、すべて確保済みです」
「な……な……?」
すべては、ユリアンナとアルブレヒトの描いた筋書き通り。
これは、冷徹な公爵令嬢と有能すぎる従者が、愚かな元婚約者(と、その一家)を「契約」と「法律」で完膚なきまでに破滅させ、手に入れた莫大な違約金(=財産)で自らの領地を豊かにしていく、そんな物語である。