あらすじ
「――見えます。この部屋に、まだ音が『色』になって残っています」
警視庁捜査一課の新人刑事・**夏目(なつめ)**は、絶望の淵にいた。
都心の超高級マンション最上階で惨殺された、高名な作曲家。内側から施錠された完全密室、最新のAI監視システムにも、侵入者の痕跡はゼロ。まさに「見えざる犯人」による不可能犯罪だった。
手詰まりとなった捜査本部に、上層部が最終手段として連れてきたのは、一人の民間コンサルタント。
彼女の名は、氷月(ひづき)れい。
色素の薄い髪と、感情の温度が読めない人形(ドール)のような美貌。彼女は自らを、**「共感覚(シナスタジア)」**の持ち主だと名乗った。特定の音を聴くと、色が視えるのだ、と。
オカルトだ、と夏目が内心で嘲笑した、その時。
れいは現場の空気を吸い込むように、静かに呟いた。
「……うるさいですね。床を圧迫するような『絶望』の重低音……濁りきった鉛色です。それと、耳の奥を引っ掻くような『嘲笑』の甲高い音……チカチカと明滅する、不快な黄色でしょうか」
戯言だ。だが、彼女が指し示す「音の色」を辿るたび、鉄壁だった容疑者たちのアリバイに次々と亀裂が走り、常識ではあり得ないはずの物証が、まるでパズルのピースが嵌まるように現れ始める。
彼女は本当に、常人には視えない「何か」を視ているのか?
それとも、すべては悪魔的な計算に基づいた罠なのか?
夏目の理性が警鐘を鳴らす。この女を信じてはいけない、と。
しかし、捜査は確実に、彼女が示す「色」の先にある真実へと導かれていく。
これは、真実へと至る道筋を示す、最も危険な案内人の物語。