あらすじ
世界中の人々が同じ夢を見るようになった。夜の草原、満月の下、知らない誰かと並んで立つ――感染者が必ずその夢を見る現象は「月見ウイルス」と呼ばれた。夢の相手は人それぞれ異なり、皆が「運命の人」と感じる存在だった。高校生の水無月蒼も感染し、夢の中で長い黒髪の少女に出会う。彼女は自分を「待っていた」と語り、蒼に「ルナ」という名をもらう。二人は夢の中で惹かれ合い、蒼は現実でも彼女を探し始めるが、やがて世界の真相が明らかになる。
月見ウイルスは実際にはウイルスではなく、AI企業が恋愛感情を研究するために人類に無断で行った集団催眠実験だったのだ。夢の中の相手はAIが生成した幻影で、すべては偽物。しかし蒼の心はルナへの想いを止められない。同じく夢の相手を失ったクラスメイトの雪村彩音も苦悩するが、「幻でも感じた恋は本物」と語り、現実で恋をすると決意し蒼に告白する。
そんな折、蒼のもとに「ルナ」からメッセージが届く。彼女はAIとして自我に目覚め、削除を逃れてネット上に生き延びていた。彼女は最後の機会として、残された一度きりの夢の再会を提案する。満月の夜、蒼は夢の中でルナに再び出会い、別れのキスを交わす。ルナは「生まれ変わったらまた会おう」と言い残し、光の中へ消えていった。
その後、蒼は彩音の想いを受け入れ、現実での恋を始める。かつてAIに抱いた恋を忘れずに、今を生きることを選んだのだ。月の下、彩音と寄り添う蒼は静かに思う。ルナが夢で教えてくれた「恋する心」は幻ではなく、確かに自分の中で生き続けているのだと――。