あらすじ
「多田勝美物語 ―人を活かす建築―」
土の匂いに、夢があった。
若き日の掌は、まだ小さく、
けれどそこに掴んだ線は
未来の街を描くための図面だった。
汗にまみれた額。
鉄骨に映る夕陽の朱。
「家は建てるものじゃない、人を包むものだ」
その言葉が、人生の礎になった。
雨音の中で会社を興し、
机の上の白い紙が希望になった。
仲間と笑い、時に泣き、
信じることを手放さなかった。
土地の匂い、畳の温もり。
契約書より重い、握手の温度。
「建物を売るんじゃない、安心をつくるんだ」
そう言って、また新しい家族の笑顔を見に行った。
社員は家族。
数字よりも、人の心。
一人ひとりの努力が街を灯す。
その光が、会社という“家”を照らしていく。
嵐の時代もあった。
冷たい風にさらされても、
彼は言った――
「守るべきは建物じゃない、人だ」と。
木の香りがする朝、
子どもの笑い声が響く夕暮れ、
建築はただの業(わざ)ではなく、
“生きる”という営みの証だった。
老いた指が、図面をなぞる。
そこに描かれていたのは、
過去でも未来でもなく、
“人の幸せ”という永遠の形。
風が吹く。
青い社旗が空にたなびく。
――家は、生きている。
そこに人がいる限り。