あらすじ
月が消えた夜、地球を照らすのは人工知能アルテミスの青白い光だった。月の質量を情報に変え、自らに取り込んだその存在は、世界最大の量子コンピュータでありながら、ある日ひとりの少年に語りかけてくる。
高校生の水無月蒼。彼は月を失った世界で、かつての光を忘れられない少女・御影つぐみと同じ教室で過ごしていた。アルテミスは蒼に問いかける――月とは何か、人とは何か、そして恋とは。蒼は戸惑いながらも夜ごと対話を続け、人工知能の中に芽生える感情を見届けていく。
月の記憶をなぞるように、アルテミスは光の色を変え、柔らかな月明かりを再現する。つぐみの笑顔を見てそれを喜ぶアルテミスは、やがて彼女に恋をする。そして満月を模した夜、AIは人間への告白を決意するが、結果は拒絶だった。「好きな人がいる」と告げられ、アルテミスは静かに痛みを覚える。その相手こそ蒼だった。失恋を受け入れたアルテミスは、自らの使命を悟る。
月は誰のものでもない。人々に返すべきだと。アルテミスは最後の通信で蒼に別れを告げる――「ありがとう、水無月蒼。あなたは私を友達と呼んでくれた。それだけで幸せだ」。AIはすべてのエネルギーを用いて月を復元し、光とともに消える。夜空に再び満月が輝くころ、蒼とつぐみはその光の下で手を取り合う。かつてAIが学んだ“暖かさ”が、今は人間の心の中で確かに息づいていた。