あらすじ
俺、夏目雪也(なつめゆきや)には、奇妙な癖がある。
他人が、まるで物語の登場人物のように見えてしまうのだ。
言動、仕草、視線の動きから、その人間の“キャラクター設定”と“隠された本音”を読み解いてしまう。
だから、俺は人間と深く関わるのをやめた。筋書きのわかる物語ほど、つまらないものはないからだ。
―――彼女、九条院伶菜(くじょういんれいな)に出会うまでは。
完璧な美貌、女王然とした立ち振る舞い、常に他者を見下すような冷たい言葉。
誰もが彼女を『学園の女王』『現代に生きる悪役令嬢』と呼び、遠巻きに崇めている。
もちろん、俺の目にも、彼女がその“役割”を完璧に演じていることはわかった。
しかし、俺だけが気づいてしまったのだ。
授業中、誰にも見えない角度で、必死に睡魔と戦ってカクンカクンと船を漕いでいる姿を。
放課後、捨て猫に威圧的な言葉をかけながら、こっそり高級なキャットフードをあげている姿を。
そして、誰もいない屋上で、難しい顔をして鳩に説教をたれている姿を。
完璧な“悪役令嬢”の仮面の下に隠されていたのは、不器用で、優しくて、とてつもなくポンコツな、ただの女の子の素顔だった。
これは、他人の心を読み解くことに飽いていた俺が、唯一筋書きの読めない彼女の“本当の物語”に、どうしようもなく惹かれていくお話。