あらすじ
『Trick or Blood ―渋谷吸血夜譚―』
ネオンの月が、街を嘲笑う。
甘い血と香水の匂いが、夜を満たす。
マントの裾が風を裂き、
仮面の下で、誰もが誰かを演じていた。
「Trick or treat?」
囁く声が、耳朶をくすぐる。
振り返れば、紅い瞳。
牙が白く、月光を飲み込んでいた。
群衆の笑い声の中で、
ひとり、心臓が違う拍を刻む。
鼓動が、誘いとなり、呪いとなる。
――血の契約は、キスよりも静かに。
渋谷の夜は、仮装の皮膚を剥いでゆく。
正体を隠す者ほど、美しい。
「君の名を、もう一度」
その声に応えた瞬間、世界が溶けた。
霧の中で、唇が触れる。
鉄の味。熱の記憶。
“愛してしまった”と気づく前に、
すでに首筋に、永遠の印。
夜明けは遠い。
街はまだ、血と音に酔っている。
誰かの笑い、誰かの叫び、
そのすべてが、祝祭と葬列の境目で。
――仮装ではなかった。
彼は、本物のドラキュラだった。
悪役令息。紅の血脈。
名を、ヴァン・アルカード。
そして僕は、選ばれたのだ。
この街で、
最も甘く、最も残酷な
“Trick or Blood”の犠牲者として。