あらすじ
『似鳥昭雄物語 ― お、ねだん以上の哲学 ―』
雪の降る町に、ひとりの少年がいた。
靴の底から、氷が鳴く。
薪の煙、母のぬくもり。
「いつか、人の役に立つものをつくる」
その言葉が、吐息よりも熱かった。
――貧しさは、恥じゃない。
夢をあきらめることこそ、恥なのだ。
北の風が、彼を鍛えた。
木の香り、鉄の音、手のひび割れ。
家具を担いで、坂をのぼる。
ひとつ売れた夜の、灯油の匂いが忘れられない。
倒産寸前、眠れぬ夜。
借用書の数字が、白く滲む。
それでも、心のどこかで信じていた。
「安くて、いいものは、誰かを笑顔にできる」
アメリカの空の下で見た倉庫は、
未来そのものだった。
「安く売る」は罪じゃない。
「幸せを安く届ける」ことが、商いの道だ。
帰国した彼は言う。
「まねしているうちは二流だ。
考えて動く。それがニトリだ。」
木屑の香り、箱詰めの音、
レジの前に並ぶ客の笑顔。
“お、ねだん以上。”
その一言に、四十年の汗が光る。
人を育てる。
理念を伝える。
「学ぶことをやめた会社は、
息をしていないのと同じだ。」
台湾の夜市で聞こえる笑い声、
バンコクの夕陽に照らされた看板。
「国は違っても、
“豊かに暮らしたい”思いは同じだ。」
晩年、北の窓辺で
ゆっくりとコーヒーを口にする。
白い息の向こうに、
過去と未来が重なる。
「住まいの豊かさは、
心の豊かさ。
値段の裏に、やさしさを忘れない。」
その声は、
いまも店の中に響いている。
木の棚に、布の香りに、
誰かの新しい暮らしの始まりに。
――お、ねだん以上。
それは、
人を想う心の、
もうひとつの名前だった。