あらすじ
秋の夜、語り手は台所で月見の支度を整える。欠けのある白い皿、粉、すすき二本、懐中電灯。潮の匂いに導かれ堤を越え、引き際にだけあらわれる洞口へ。外の月見をやめ、洞口を「月見の窓」と見立てて中へ入る。滴の間隔、風の乾きと湿り、水鏡の揺れを頼りに道を選び、狭い喉を身を細くして抜ける。やがて光が方向を失い影の立たない広間に至る。白は明るさではなく「均し」として在り、音も足跡も吸われる場所。語り手は言葉を捨て、所作だけで月見を行う。皿の粉に指の幅で「欠け」を作ると、白はそれを受け入れて乱れない。すすきの一本が倒れ、一本を置いて帰る決心が体の重さとして戻る。潮が反転する気配を合図に来た道を戻ると、外では影が濃さを取り戻している。家に着き、欠けの見える向きで皿を置き、すすきを小瓶に差す。紙片に一行「月見は裏の白で息が合う」と記し、朝の手前の静けさに身を合わせる。表と裏、満ちと欠け、影と白。潮の呼吸に自らの呼吸を重ね、欠けを抱いた整いへと着地する、月夜の内的漂流譚。