あらすじ

夜が来るたび、結城一世は“もうないもの”の気配を聞く。透明な声の主は、葵——彼の世界を静かに変えた人だった。 春。人混みの中で孤独に慣れた転校生の一世は、同じクラスの葵と出会う。美しいのにどこか「ここに居ない」目をした彼女は、一世の中の空洞と同じ形をしていた。ふたりは少しずつ距離を縮め、言葉にできない寂しさを分け合うように並んで座り、同じ時間の上に体温を置く。やがてそれは恋となり、生活となる。 一緒にいることは、救いであり、同時に依存の始まりだった。葵は一世の全てを確かめたくなり、一世は彼女の不安を消すために自分の自由を手放していく。 「俺はここにいる」 その言葉は祈りになり、日課になり、いつしか呪文になった。 同棲に近い暮らしが始まり、ふたりの世界は外界から切り離されていく。喜びも不安も濃くなり、些細な行き違いは涙に変わる。そんなある夜、葵は問う。 「もし、赤ちゃんができたらどうする?」 “戻れない未来”への恐れと同じだけの願いを抱えながら、ふたりはそれでも前へ進むことを選ぶ。小さな命の気配は、壊れやすい日常をかろうじて明るくした。 しかし、幸福は壊れる前に名前を呼ばれない。ある日、予期せぬ出来事が一世を奪い、葵は世界の音を失う。残された彼女は「生きるとは何か」を絶望の底で反芻し続け、やがて三年の空白ののち、自らも静かに境界を越える。 死後、ふたりは再会する。そこは悲劇の延長ではなく、選択の果てに開く“青”——世界がいったん崩れ、なお水平線が描き直される場所だった。ふたりは、愛と依存の違い、赦しと責任の重さ、そして「誰が誰を救うのか」を、もう誰にも見えない海辺で確かめ合う。 『青の崩壊』は、共依存の極限から崩れ、なお再生へとにじり寄る物語だ。優しさがときに執着へ変わること、救いが同時に重荷にもなること、それでも人が誰かと生きようとするとき、崩壊の青は新しい水平線へと線を引き直す——そんな、終わりと始まりの記録である。

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カクヨム
カクヨム2025/10/18
  • 現在の作品青の崩壊