あらすじ
記憶を失った大学生・月原澪は、祇園の夜にだけ灯る喫茶「偃月」へ“客”として通うようになる。
店主の偃月は穏やかな笑みの奥に、どこか月の冷たさを宿していた。澪は理由の分からない安心感に導かれるまま、少しずつ夜の京都へ足を踏み入れていく。
やがて街では、清水や貴船、伏見稲荷――“願いが通る”と囁かれる場所を舞台にした危険なチャレンジが流行し、軽い好奇心の裏で「対価」を支払う者が増えていった。
澪の周囲でも、願いと承認欲求に飲まれた占い師・手鞠が「通し香」に導かれ、千本鳥居の闇へ踏み込んでいく。
止めようとした澪は、偃月と共に伏見へ向かうが、そこで待っていたのは“願い”が形を持った魔と、笑って見守る男――四辻。
澪は身代わりのように闇へ呑まれ、辿り着いた先は地獄の庁舎だった。冥土通いの井戸、閻魔の印、半死の魂。現世と地獄を往還する“特例”として、澪の生活は静かに変質していく。