あらすじ
「あの、お客様。お加減が悪いのですか……?」
……おれは絶句した。お加減が悪いのですか、だって? 悪いのですか? はあ!? ――と、喉まで込み上げた怒声をどうにか飲み込んだ。
だが客室乗務員の女は、おれの怒りにまったく気づいていない。眉を寄せ、作ったような困った顔で言葉を続けた。
「他のお客様から、何度もお手洗いに立たれるのが気になると申されまして……。もしよろしければ、おなかのお薬をお持ちしましょうか?」
おれは乗務員の胸ぐらをつかんだ――もちろん、頭の中でだ。おれは常識を弁える男だ。それでも今回ばかりは本気で怒鳴りそうになった。
そこを必死で堪え、ただ深く息を吐くだけに留めた。そして、喉の奥から絞り出すように答えた。
「いや、大丈夫です……」