あらすじ
主人公・龍左衛門は、品川の茶家見川(さけみがわ)に面した船宿・『鯉志(こいし)』で船頭を勤める粋な若者である。
彼の両親は、貸本屋を経営していた。しかし、十二年前、茶家見川の再開通事業の最中に洪水に巻きこまれ、そろって死んでいる。
茶家見川は、数奇な経歴を持っていた。
かつて『茶家見川、二十五町(約二千七百二十五メートル)に店百軒』と謳われたこの川は、洪水ばかり起こしているという理由で埋めたてられた。それが、明和の大火(西暦1772年)を境に再開通事業を経てふたたび掘りかえされ、復活したという経緯を持っている。
洪水から数ヶ月の間、龍左衛門は茶家見川で両親の遺体を探し続けた。そんなある日、河口で小さな石地蔵を見つけ、家に持って帰った。
その日の晩、一人の河童が彼を訪れ、龍左衛門の友人となった。河童は彼に、水泳から天気の予測、舟の漕ぎ方までをも教え、かくていっぱしの船頭となれたのである。
以来、十二年。
初秋の黄昏時に、その日の仕事を終えた龍左衛門は、河童から相撲に誘われた。誘いを断った龍左衛門は、河童から、土俵代わりに使っている廃神社に若く美しい女性が住みついていると聞かされる。
話を聞いてから、河童と別れて『鯉志』に戻った彼は、女将のおふみからいつものように丁寧にねぎらわれた。おふみは三十路にさしかかっており、龍左衛門が密かに想いを寄せている。
龍左衛門が、おふみの同意を得て看板をしまいかけた時、一人の客が舟を出してほしいと頼んで来た。武家の女性とすぐ分かる彼女は、河童が語っていた神社のそれで、かつて茶家見川の川舟改役を勤めていた櫛田家の娘であった。
渋るおふみに対し、櫛田は、自分の恋人を手討ちにした男への仇討ちが目的だと語った。
その男……桐塚 重斎(きりづか じゅうさい)は、武州金沢藩の末席家老である。幕閣に働きかけ、茶家見川を埋めたて、そして掘り返させた張本人であった。
※完結保証。約十一万五千字です。
※最終話は十月二十八日(火)の夜十時十分に公表されます。