あらすじ
世界は「理(ことわり)」というネットワークに支えられている。
祈りも、感情も、記憶さえも──この世界では通貨として取引される。
舞台は水上に浮かぶ都市《アクア=ルーミナ》。
ここでは“記憶”を支払うことで、どんな傷も癒せる。
だが、支払いのたびに失われるのは、誰かとの想い出。
癒された者は、癒した者の名を思い出せない。
アレイン・カレイド――世界最高位の“癒しの理術士(ヒール・アルキテクト)”。
彼は今日も記憶を支払い、人々の痛みを買い取る。
そして、残されたのは「自分の過去が抜け落ちた空白」だけ。
その弟子、リュシア・フロールはまだ若く、純粋だった。
“癒しとは優しさ”と信じていた彼女は、やがてその代償を目の当たりにする。
支払いすぎて記憶を失った市民たち、
他人の記憶を盗んで売り捌く闇商人《メモリス》。
そして、残高が尽きてもなお癒しを続ける師の姿。
「どうしてそこまでして、他人を癒すんですか?」
少女の問いに、男は静かに笑って答える。
「――僕はもう、自分の痛みを思い出せないからね。」
しかし、都市を覆う“記憶犯罪”の波は、やがて理の均衡を崩壊させていく。
全市民の記憶データが流出し、癒しの理ネットワークが停止。
残高ゼロのアレインは、自らの全記憶を担保に“最終決済魔法《Full Settlement Heal》”を発動する。
人々は救われる。だが、師は全てを忘れた。
彼にとって、リュシアという存在さえも。
――癒しは残高から。
優しさには、代償がある。
記憶が通貨となる世界で、“想い”の価値を問うヒューマン・ファンタジー。