あらすじ
この世界では、誰もが神から与えられたスキルを持って生まれてくる。戦闘スキル、生産スキル、あるいは生活スキル。そんな中、俺が授かったのは【修復】という、ひどく地味なスキルだった。
壊れたものを、原子レベルで「壊れる前の状態」に戻す。ただそれだけの力。
俺、ノアは王都の片隅で「ノア修復工房」という小さな店を営んでいる。割れた皿、壊れた農具、動かなくなった絡繰り時計。人々が持ち込む「壊れたもの」を直し、日銭を稼ぐだけの静かな毎日。それで満足していた。
あの日、一人の少女が工房を訪れるまでは。
少女が差し出したのは、泥と傷にまみれた小さな木彫りの人形だった。それは、五年前に流行り病で死んだはずの、王女様が持っていた人形。そして少女の正体は、心を失い、王宮の奥深くに幽閉されているはずの、第一王女セレナ・フォン・アルストロメリアその人だった。
「……これを、なおして……ください」
か細い声でそう告げた王女の瞳は、まるで光を失ったガラス玉のようだった。
誰もが諦めた、呪いによって砕け散った王女の「心」。
俺は、意を決してその人形に触れる。そして、【修復】の力を使った。
俺のスキルは、物理的な破損だけを元に戻すものではない。その物が持つ「記憶」や「想い」、そして「本来あるべきだった姿」へと回帰させる力。
――これは、地味なスキルしか持たない一人の男が、壊れた王女の心を皮切りに、呪われた聖剣、引き裂かれた人と魔族の絆、そして大崩壊によって歴史から失われた古代文明まで、この世界の「綻び」を一つ一つ繕っていく、静かで壮大な修復の物語。