あらすじ
嘘はこの世界の“空気汚染”だ。
人がつく嘘は黒い霧《嘘靄(きょあい)》として漂い、街を蝕む。溜まりすぎれば、人は正気を失い、街は死ぬ。
エリアナ・ノワール(28)は、その嘘靄を自らの体に取り込み、浄化する“浄言師”として生きている。
だが嘘を喰らう者は、やがて嘘に侵される。
人々からは「嘘つきの墓場」と呼ばれ、忌避される存在だった。
ある雪の夜。王都の貴族邸で起きた密室殺人。
被害者は喉を裂かれ、部屋中に血の痕。
――だが、ひとつだけありえないことがあった。
そこには“嘘”が一つも存在しなかった。
犯人が逃れるために吐く嘘靄も、取り繕いの影も、何も。
代わりに、エリアナの感覚を焼いたのは“透明な悪意”。
それは、嘘ではない純粋な敵意。
言葉の裏にあるはずの歪みが、完全に存在しない恐怖。
「嘘を喰う者には、真実が毒になる」
やがてエリアナは、嘘のない世界を目指す教団《真域(しんいき)》と、
その背後で“真実しか語れない”禁忌の存在へと近づいていく。
人を壊すのは、嘘か、それとも真実か。
嘘を喰らい続けた女の旅は、聖域の境界で自らの信念を試される。