あらすじ

海の「わたし」は足も肺も持たない、傘のような身体で潮の脈に生きている。ある夕刻、海面下で沈みかけた「黒いもの(彼女)」に触れ、わずかな浮力を貸すが足りないと知る。わたしは水面の「皮膚」を額で押し、初めて「骨」という速度と「陸の重さ」を借りる決心をする。指と肺を得て彼女を浜へ引き上げ、救急の赤と白のあいだで名を求められ、わたしは自らを「海」と名乗る。病院の夜、熱い紙コップの甘苦さ、うなずき方や目の置き方を学びながら、ガラス越しの寝息を波の拍のように見守る。看護師の「命は大丈夫です」に、内側の傘は静かに開き直る。明け方、車椅子の彼女は窓を指の幅だけ開け、細い風に礼を託す。わたしはそれを受け取り砂浜へ戻り、借りていた骨と重さを海に返す。昨夜の赤い点滅は微かな重石として内側に残り、海の脈は彼女の呼吸とほぼ重なる。名を持たずにいられるが、呼ばれればまた陸の言葉を借りるだろう――浮かせることと抱えることが同じ線上にある限り。引き潮の朝、潮の音量を一段落とし、待つための音楽の中で目を閉じる。

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エブリスタ
エブリスタ2025/11/02
  • 現在の作品水面の皮膚