あらすじ

外見からは、いつもの世界──だけどその世界では、静かな終末がすでに始まっていた。 “虚白化”と呼ばれる現象。ある日、誰かが「リンゴ」という言葉を忘れる。「リンゴ」の味も、形も、存在すら。そうして“リンゴ”というものは、世界からひそやかに消えていく。 次に“青”が消え、空は色を失った。つづいて“愛”が消え、人々は家族を忘れ、それでも気づかない。やがて“悲しみ”も消え、人は泣けなくなった。 17歳の少女・ノアは、この“忘却”の渦にただ一人、耐えることができた。彼女は“名付け師(ネーム・ブリンガー)”──物の正しい「名前」を呼び返す力をもつ。語られずに消えゆく概念を、記憶を呼び戻すことで、わずかに実体を取り戻させる。 しかしその力は脆くて――世界の崩壊速度には追いつかない。 その時、ノアの妹・リマが“概念の消失”に巻き込まれた。妹の「名前」も存在も、両親も、世界の誰からも忘れられてしまった。家具とともに、妹の部屋だけが空虚に残る。ノアだけが覚えていた。あの温もりを。あの名前を。 真相を掴んだとき、現れたのは「虚白(ヌル)」と呼ばれる思想を掲げるカルト。彼らは世界から意味を奪い、“無”への回帰を説く。彼らにとって、ノアと“名付け師”たちは異物だった。 妹を、名前を、そして世界を救うため――ではない。ノアの決意は、ただ一つ。 「私が、奪われた〈名前〉を取り戻す」 知性と記憶だけを武器に、少女は静かな反抗へと歩き出す。 ──これは、あらゆる「意味」が失われた世界で、少女が「たったひとつの意味」を探す物語。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2025/11/02
  • 現在の作品『虚白の世界〈Null-Word〉と、最後の名前〈Last-Name〉』