あらすじ
プロローグ ―揺れる鐘の音―
港町にはひとつ、古い時計塔がある。
誰が建てたのかもうわからないが、毎正時になると海風を切って鐘を鳴らす。
だが、この町の一部の人だけが知っていることがある。
ときどきこの鐘は──順番を間違える。
カン、カン、カン──と鳴るはずなのに、
カン、カン、……カ、と一拍だけ戻ることがある。
それは天気でも、故障でもなく、
“誰かの時間がこの町のどこかで少しだけ揺れたとき”に起きる、と噂されていた。
その噂の中心にいると囁かれていたのが、
花屋「Aster Flowers」の、金髪の女だった。
彼女の名はアステル。
昼の顔は、もの静かで手の早い花屋。
夜の顔は、仮面をつけた闇の宝石商──
「Asteright(アステライト)」。
そして、彼女自身はまだ知らない。
自分が扱ってきた“輝き”が、やがて時間そのものを巻き込んでしまうことを。