あらすじ
2013年、夏。
藤澤は川島疾風に憧れ、中谷勇次に嫉妬する。
田舎極道に雇われて運び屋をしていた走り屋と、巨大極道組織の二次団体の組長の息子が槻本山で事件を起こした。
抗争になりかねない事態を収拾すべく開かれた会談は、走り屋を兄貴と慕う弟分たちの乱入により最悪な事態に発展する。巖田屋会会長が銃弾に倒れ、生死の境をさまようことになったのだ。
巖田屋会岩城組内沖田組若衆の藤澤は、盃を受けて一年に満たないが、自らが極道に向いていないのを痛感している。会談の場での乱闘に巻き込まれても、なにも出来なかった男。でも、恋人を妊娠させることは出来る。
組長の沖田が代替わりで会長になるタイミングに、盃を返すべきなのだ。
なのに、憧れと嫉妬が、ここでやめたら何が残るのかという、呪いを突きつける。
「別に、おれが遅い訳じゃないんだよ。単純に、あの人の走りがやばすぎるだけだ。なんなんだよ、あれは」
情熱乃風という走り屋集団を解散させた男、川島疾風。
一線を退いてなお、未だに実力差は埋まらない。
極道になって、度胸もついたいまの藤澤ならば、疾風よりも速く車を走らせられると思い込んでいた。
しかし、槻本山で疾風が事件に巻き込まれた夜、藤澤はかつての憧れにあっさりと追い抜かれるだけだった。
さらに気に入らないのは、会談を無茶苦茶にした守田裕と中谷勇次が、疾風の弟分と啖呵を切ったことだ。
混乱のどさくさで、守田が敵対組織に連れていかれてもなお、勇次は自分を曲げずに貫く。
「てめぇ、兄貴がどうなったか知ってんだろ? 本当は、まだ生きてるんだろ。どうなんだよ、おい?」
その姿は、誰よりも速く走る男のようで、藤澤は自分がなれなかった若者の姿に嫉妬する。
これだけは負けないというものがないから、人と比べてしまうのかもしれない。
そんな藤澤は、最強と名高い極道から、刃物を使った殺しのスキルを教わることになる。
新しい生命を迎える準備段階に、生命を終わらす術を鍛えていく男は、なにものかになれるのだろうか。