あらすじ
誰から押し付けられたわけでもなく、息をするように、人が人を監視する社会。
日々、憂さ晴らしの対象を探して、ネットの海を漁る。
そんな“新時代の隣組制度”の中、若者たちは「平凡」という最高難度のミッションに挑む──
六月の湿った空気の中、女子学生は「遅刻!」と駆け出す。長めのスカート、控えめなスリット。その一つひとつが、見られるための防御線だ。
電車、講義、SNS──あらゆる場所で、誰かのレンズが彼女を照らす。友人のスマホ越しの笑顔、図書館の静けさに潜む「もし撮られたら」という恐怖。
彼女は“炎上しない生き方”を無意識に選び続けていた。
夕方、帰り道の光が傾く。部屋に戻り、スマホを伏せる。誰にも見せない写真を、一枚だけ撮る。“見られる”ためではなく、“見たい”から。カメラのシャッター音が、かすかに響く。
その音は、監視の世界で初めて彼女自身が鳴らした、静かな自由の合図だった。