あらすじ

「今から、この子を殺す」
血まみれの出産室で、私は必死に命を繋ぎ止めようとした。東京の産科救命センターで働く助産師として、何百もの命を救ってきた。でも、その日だけは違った。田中麻衣さん、25歳。若い母親の命は、私の手の中からすり抜けていった。
目が覚めたとき、私は異世界の辺境村で15歳の少女アリア・フローレンスとして生きていた。前世の記憶と知識をすべて持ったまま。
この世界には治癒魔法が存在する。怪我も病気も一瞬で治せる便利な魔法。でも、出産という「生理現象」には、魔法は無力だった。妊産婦死亡率は極めて高く、出産は命がけの危険な行為として恐れられている。
「助けて…誰か…」
村で難産に苦しむ妊婦の悲鳴を聞いたとき、前世の記憶が鮮明に蘇った。古参のライファー(助産師)が諦めかけた瞬間、私の体が動いた。現代医学の知識と、この世界の「生命診眼(ライフサイト)」という魔法能力を組み合わせた処置。母子ともに救命成功。
「この世界の出産は、あまりにも危険すぎる」
私は師匠エルザのもとで、ライファーとしての修行を始めた。一人でも多くの命を救うために。前世で救えなかった命を、この世界で贖うために。
しかし、私の前に立ちはだかったのは、王立医療学院の教授ハインリッヒ・フォン・シュタインだった。治癒魔法至上主義者の彼は、私の現代医学的アプローチを「魔法を使わない下等な技術」と見下し、排除しようとする。
「君の技術など、所詮は魔法以下だ」
彼の妨害によって、王都での活動は困難を極めた。でも、私には味方がいた。騎士ルーカス。妹を出産で亡くした過去を持つ彼は、私の使命を理解し、いつも傍で支えてくれる。
「君がいれば、救える命がある。俺はそれを信じている」
彼の真っ直ぐな眼差しに、私の心は少しずつ温かくなっていった。命を救うことだけを考えていた私が、誰かに守られる幸せを知った。
村での日々、王都での試練、そして次々と訪れる難産の症例。肩甲難産、妊娠高血圧症候群、前置胎盤、双子の逆子——前世の知識がこの世界で花開いていく。
「先生のおかげで、私の赤ちゃんは生きています」
感謝の言葉を聞くたび、前世のトラウマが少しずつ癒されていく。そして、いつの間にかルーカスは、私の特別な存在になっていた。
「アリア、君を守りたい。君の笑顔を、ずっと傍で見ていたい」
治癒魔法が支配するこの世界で、魔法に頼らない医療で命を救い続ける私。そして、騎士様からの溺愛に戸惑いながらも、心は確かに彼に傾いていく。
魔法至上主義者との対立、次々と訪れる命の危機、そして芽生える恋——。
異世界で助産師として生きる私の物語が、今始まる。

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アルファポリス
アルファポリス2025/10/30
  • 現在の作品前世で救えなかった命を悔やむ私が、治癒魔法が出産に効かない異世界で助産師をしていたら騎士様に溺愛されました