あらすじ
『エピローグレター ― 最後の台所から ―』
湯気のむこうに
若い日のあなたがいる
夕暮れの台所
玉ねぎの甘い匂いが
時をゆっくり ほぐしていく
「おかえり」
その言葉だけで
家は、光を取り戻した
味見をして
笑いながら 塩を足すあなた
わたしは それを見て
生きる意味をひとつ覚えた
いま、手が震えて
字がゆがんでもいい
ミミズが這うようでも
心は、まっすぐあなたへ伸びている
レシピの隅に
わたしの一生がこぼれてる
肉じゃがのじゃがいもは
愛を煮崩した味
白菜サラダには
冬のあなたの咳の音
山形のだしには
夏の汗と笑い声
子どもたちよ
この香りを覚えていて
母の記憶は 味になる
思い出は 湯気になる
そしてあなたへ
――ありがとう
最後の手紙は
もう 書かなくてもいい
あなたの皿の上に
私のすべてが のっているから