あらすじ

終業後の角のカフェで、「ぼく」と彼女は向かい合わず斜めに立つ。紙コップの輪、信号の電子音、改札の重なる音――等間隔のモチーフが二人の距離を測る。彼女は軽い近況や元彼の「笑える話」を差し出し、ぼくは肯否を決めずに受け取る。帰路でも改札やホームでわずかな遅れを共有し、夜、ぼくは下書きにタイトルだけを残して本文は空のままにする。 第二章、深夜の電話。「彼氏ができた」。ぼくは「よかったね」と短く返す。彼の像は彼女の語りの中で整い、ぼくの未送信は増える。書店の恋愛本の棚、窓の指幅だけ残す風の通り道。そのたびぼくは小さく静かに失恋する。 第三章、雨の夜、彼女は不調を打ち明ける。ぼくは肯定も否定もせず傍に立つ。終電前のホームで肩がふれ、ぼくは半歩退く。「送らないの?」に、未送信を開いて閉じる。消す動作が別の消去に似ると気づき、やめる。 第四章、彼女は「別れた。でも話してる人はいる」と告げる。昼のカフェ、輪は二つ。交差点の青のたびに、ぼくは渡らないことを選び直す。「すべてを削除」は押さず、窓を指の幅で閉じ、残るものは残す。等間隔の音に呼吸を合わせ、立ち位置をわずかにずらし続ける――「渡らない」という作法としての失恋の記録。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
エブリスタ
エブリスタ2025/10/29
  • 現在の作品青のあと