あらすじ
夜ごと外灯が落とす四角い光の縁を歩く「ぼく」は、針をもたない小さな獣だ。藪の湿りと土の匂いの中、背を撫でる風だけが確かな接触で、欠けているのは針、足りないのは輪郭だと知っている。ある白い夜、針を備えた「彼女」と出会う。距離は手のひら一枚。言葉の代わりに角度で〈だいじょうぶ/急がない/ここにいる〉と伝え、害のない丸い物を光の中にそっと置いて見守る。やがて「ぼく」は松ぼっくりやアザミの枯頭を背に絡め、借り物の棘で輪郭を仮縫いするが、それは近づくための武具か、近づけない自分への言い訳かという疑いが胸に鳴る。四角い光の中央で迎える告白の夜、「彼女」は三つの短い言葉――「違うの」「そのままで」「ごめん」――で未来に鍵を掛けずに扉を閉じる。帰途、「ぼく」は借り物を一つずつ返し、軽くなった背に増える空白と向き合う。置かない手で光を横切り、風の撫で方に抱擁の幅を見出す春が来る。蛙の声が重なる夜、寝床に白い糸を一片だけ残し、暗さが透明に変わる感覚の中で、呼吸は風と重なり、四角い光は小さく呼吸する。針のない背のまま生きることを、距離の正直さとともに静かに採択して、物語はおだやかに終息する。