あらすじ
真夏、四十一度の街。
保険会社を解雇され、恋人にも去られた二十一歳の知沙は、冷めた笑みで交差点を渡る。
部屋には飲まれない薬と、鳴らないスマホ。
登録された番号を一つずつ口にしても、返事はない。
鏡の中には「美人」と呼ばれる顔が映るが、そこに体温はない。
自嘲と微笑の間で、彼女は「ねえ、あなた誰?」と自分に問いかける。
やがて、突然の雨。
蟻のように逃げる人々を見て笑い、
また鏡を覗き、「健康優良児」と呟く。
二十一歳の誕生日。
何も届かない朝、知沙はショッピングモールで自分を飾り、夜の歩道橋で靴を脱ぐ。
「お誕生日おめでとう」と囁きながら、風に押されて宙を舞う。
痛いほど青い空から始まった物語は、夜の静寂に溶けて終わる。
生と死、存在の境界を見つめる現代の孤独の短篇。