あらすじ
文化祭ライブまで、あと三日。
完成しないオリジナル曲。足りないのは「深さ」だった。
「悲しいけど、綺麗で、沈んでいくような音が欲しいの」
弱視の少女・芳子がそうつぶやいたとき、
透真は冗談めかして言った。
「平家の落人みたいな?」
一瞬、空気が止まる。
芳一の指がギターの弦の上で凍りついた。
「……平家? あそこ、夜になると音がするんだよ」
鈴のようで、波のようで――
海の底から誰かが呼んでいるような音。
透真は笑い飛ばそうとした。
けれど、芳子の声には、どこか祈りにも似た震えがあった。
「その音を聴いてると、涙が出そうになるの。
まるで“もう一度、聴いて”って言ってるみたいで」
文化祭の夜、彼女のギターが紡ぐ旋律は、
“この世”と“あの世”をつなぐ呼び声になる――。
現代の“耳なし芳一”が奏でる、音と祈りの青春怪談。