あらすじ

高校二年の春、結衣は放課後の公園で一匹の白猫と出会う。  その猫――しろ――は不思議な瞳を持ち、風のように静かに寄り添った。  結衣はその日から、風の流れや音の微かな変化を感じ取れるようになる。  母と二人で暮らす静かな家、明るい友人たち、そして“風”を描きたいという衝動。  日常の中に、確かに何かが動き始めていた。  やがて、しろは姿を消す。  けれど結衣の耳には、風の中に“ありがとう”という声が残った。  その別れを越え、彼女は新しい猫――灰色の“そら”――を拾う。  そらは、しろの記憶を受け継ぐように、風に反応し、  やがて言葉を持たないままに心を通わせていく。  季節が巡り、結衣は高校三年の冬を迎える。  受験や将来に揺れながらも、「風の景」という絵を描き上げ、公募展に応募する。  それはしろとそら、そして自分自身を描いた風の記録だった。  その夜、そらは風と共に旅立ち、結衣は“風が続いていく”ことを信じるようになる。  卒業式の日、公募展の入選通知が届く。  結衣が描いた風は多くの人の心に届き、町に新しい空気を生んでいた。  春の風の中、しろとそらの姿が光となって現れ、  「風は町になった」という言葉を残して消える。  それは、別れであり、再生の瞬間だった。  結衣は大学で美術を学び、風を描き続ける。  日々の生活の中で、そらの声は次第に聞こえなくなるが、  風が吹くたびに、その気配を感じる。  卒業制作では再び“風”をテーマにし、  「見えないものを描く」というしろの教えを胸に筆を走らせる。  社会人となった春の朝。  通勤途中、川沿いの道を歩く結衣の頬を、やわらかな風がなでる。  遠くで子どもの笑い声、舞う桜の花びら、光る水面。  そのすべてが、かつてのしろとそらを思い出させた。  もう猫の声は聞こえない。  けれど結衣は、心のどこかで微笑む。  ——風は、まだここにいる。  風は町を通り抜け、人と人とをつなぎ、  誰かの涙を乾かし、誰かの夢を揺らしていく。  結衣の物語は終わっても、風の物語は終わらない。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2025/10/27
  • 現在の作品結衣と風の猫