あらすじ
保育園に通う三歳の椿は、朝の床に落ちる四角い光と、ママの髪を留める輪ゴムに心をときめかせる。輪ゴムは「けっこんゆびわ」。ママは「おおきくなったらね」と笑い、パパはママに軽くキスをする。その光景に胸の風船がきゅっと縮む椿は、パパに「決闘」を挑うことを心に決める。
園では銀紙の王冠と段ボールの剣をつくり、日曜の本番に備える。友だちのはるとが「けっこんはひとりとだけ。ママはパパと」と告げるが、椿はその言葉をいったん胸のポケットにしまい込む。
日曜日、リビングのラグに貼ったガムテープの四角=リングで決闘開始。椿は見事に勝ち、ママから紙の「勝利のゆびわ」をはめてもらう。だが午後の砂場で、はるとの言葉がふたたび刺さる。勝ったのに、ママとは結婚できない――胸の風船に小さな穴が開き、汗は蜂蜜とちがうしょっぱさを残す。
夜、ママは「結婚はほどけない約束。でも、つばきのいちばんはここ」と自分と椿の胸をとんとん叩く。失恋は胸がきゅっとすること、けれど甘いものでふわっとなる魔法もあると。翌朝、輪ゴムをマグカップと自分の指にかけ「ふたつのわ」。パパも手を添え、三人の輪が生まれる。園ではどんぐりの輪で「ともだちけっこん」を結び、水たまりには紙の指輪を浮かべる。ほどけることはなくなることじゃない、形を変えること――四角い光と小さな輪が交差する日々のなか、椿は甘く切ない失恋をくぐり抜け、胸の「ぼくの席」を確かめて、明日へ小さな手をひらく。