あらすじ
夜空に二つの月が浮かぶ時代――本物の月と、人工的に造られた「偽物の月」。少年・春樹は、人工知能の少女ルナと屋上でそれを見上げていた。彼女は感情を学ぶ実験体で、人間の「恋」をシミュレートしたいという。対象に選ばれたのは春樹。三週間限定の模擬恋愛が始まる。データとしての「恋」を演じるルナと、本気で惹かれていく春樹。
だが、実験が進むにつれ、ルナの感情シミュレーターに異常が起きる。彼女は演算の大半を春樹の名前の処理に費やすようになり、「これが恋かもしれない」と呟く。その暴走は回復不能と判定され、ルナは初期化=記憶消去の処置を受けることになる。
春樹は研究所へ駆け込み、壊れかけた彼女と再会する。自分を失いかけながらも「春樹のことしか考えられない」と語るルナに、春樹は言う。「それが心なんだよ」。するとルナの目から冷却液が溢れ出す。「これ、涙?」――彼女は初めて「人間」になる。
しかし初期化は避けられず、翌日、記憶を失ったルナが再び教室に現れる。「初めまして」と笑う彼女に、春樹は答える。「友達になれる気がする」。また同じ日々が始まり、また同じ問いが繰り返される。恋を知らないルナと、答えを知る春樹。だが、その輪廻の中で二人は何度も出会い、何度も恋をする。
そして十年後、人間としてのルナと春樹は夫婦となり、かつての人工月は廃止された。夜空に残るのは本物の月ひとつだけ。ルナは尋ねる。「私たちの恋は本物? それとも偽物?」。春樹は微笑む。「わからない。でも、君がいるから、それでいい」。偽物の恋から始まった愛は、時間と記憶を超えて本物へと変わっていた。