あらすじ

春、彼女は月の大学へ、語り手は川沿いの町に残る。見送りの代わりに白い付箋をもらい、鉛筆で小さな窓枠を描いて机に貼る。初めての通話で彼女は顔を映さず、金属の手すりと白い防塵布だけを見せる。月では「月夜」と言わず減光と呼ぶと聞き、語り手は商店街の月見ポスターや団子の帯紙を栞にして、離れた暮らしを自分の手触りに繋ぎとめる。 初夏、二人は通話前に同じ曲の冒頭だけを流す癖を持つが、返事の遅さを際立たせるためやめる。彼女のメッセージは文章から写真へと移り、語り手は窓枠の影を紙に写すことで不在の重さを受け止める。夏、施設の減光で通話は前倒しになり、語り手は学食の湯気をカメラに映す。言葉の代わりに立ちのぼる湯気が、かろうじて距離を支える。 秋、月の帯域制限で連絡は途切れがちになり、画面には「再接続」の表示が居座る。やがて通話は十日に一度の不定期に。理由を問わない笑いだけが、かすかな余韻として残る。 翌春が近づくころ、通知はほぼ途絶える。付箋の鉛筆色は薄れ、形だけが辛うじて立つ。語り手は片側だけの月見をし、空の皿と帯紙の栞、未送信の下書き、そして古い文「落ち着いたら、また」を前に、何も送らないことを選ぶ。窓枠の影や川風の音に季節を読み取りながら、つながりは線ではなく手つきだと受け入れる。彼女の有無にかかわらず、月夜は自分の窓で決まる――そう確かめて、静かに日々へ戻っていく物語。

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エブリスタ
エブリスタ2025/10/26
  • 現在の作品窓のほうが覚えている