あらすじ
時に、平安末期。
雅やかなる平家一門に、類まれなる笛の才と美貌を持つ若武者がいた。
その名は平敦盛(たいらのあつもり)。 彼は一ノ谷の戦いにおいて熊谷直実の手にかかり、17歳の若さで散った悲劇の貴公子としてその名を歴史に刻んでいる。
――だが、もし。
その敦盛が、「一門に勝利をもたらす」という神託のために、男として育てられた姫君であったとしたら?
偽りの鎧の下に、女としての性(さが)と苦悩を隠し、「平家の勝利の駒」として生きることを強いられる敦盛。
彼女の、そのあまりにも重い秘密を知る者は、ただ一人。
乳兄弟として、常に彼女の影となり、その身と心を守り続ける、忠実な若武者・伊勢信経(いせのぶつね)だけであった。
主君への忠誠と、一人の女性への恋情。 従者への信頼と、一人の男への思慕。
決して結ばれてはならぬ二人の想いは、戦乱の炎が都に迫る中、否応なくその熱を増していく。
そして訪れる運命の寿永三年二月七日。 源氏の総攻撃が開始される決戦の地、一ノ谷。
死を覚悟した二人が、その前夜に交わした、ただ一度きりの愛の誓い。
愛する人を、そしてその腹に宿った「未来」を守るため、信経が下したあまりにも悲壮で気高い決断とは――。
歴史の表舞台で語られる幸若舞『敦盛』。
その、美しき伝説の陰に隠された、もう一つの、真実の物語。
一人の男が愛する女の名を継ぎ、須磨の浦に散った壮大なる悲恋ロマン。