あらすじ
風が吹く。
音風(おとかぜ)市の空を、校舎を、楽器たちの眠る部屋を。
それは、音を運ぶ風。
それは、絆を結ぶ風。
それは、まだ誰も知らない風。
窓辺のティンパニが、わずかに震える。
錆びたスタンドに立つスネアが、そっと共鳴する。
ボロボロの天井からこぼれる光の粒に、ホコリが舞い、静かに空気が変わっていく。
その部屋は古い。
壁には時の傷跡、床は軋み、譜面棚には忘れられた名前が眠る。
けれどそこには、いくつもの音楽の記憶が生きていた。
ビンテージの打楽器たちは、誰かの想いを、痛みを.歓びを.すべて音に変えてきた。
そしていま——その部屋に、3つの風が舞い降りる。
一人は、風を追いかける少年。
一人は、風に耳をすませる少年。
一人は、風の名をまだ知らない少女。
3つの鼓動が重なったとき、沈黙していた楽器たちは、そっと目を覚まし始める。
音が生まれ、
音が混ざり、
音が、風となる。
まだ何者でもない彼らが、ひとつの夢を奏でようとしている。
中学一年生の春。
ここから始まる物語は、きっと——
音楽と風が、未来を導く旋律になる。