あらすじ
夜会の音楽が静まり、燭台の光が一斉に揺れた。ヴァルデンハイム王国の春を祝う舞踏会――その中心で、侯爵令嬢アメリア・ローゼンベルクは、世界が止まるような一言を聞いた。
「ローゼンベルク侯爵令嬢。あなたとの婚約を――ここで、破棄させていただきます」
婚約者セバスチャン・エーヴァルトの声は澄んでいた。だが、アメリアにはそれが遠い鐘の音のようにしか届かない。
薔薇色のドレスの裾が床をすり、花弁のように散る。舞踏会場の奥で、春の夜風が吹き抜けた。
その風の向こう、修道院の鐘が遠く鳴っていた。まるで、何かを告げるように。
――なぜ、彼はあの場であんなことを。
問いが心に芽生えた瞬間、アメリアの人生は静かに軌道を変えた。