あらすじ

白い粉と濡れ布で日々わずかな歪みを撫で直してきた「わたし」は、月夜の皿に落ちる白い筋を合図に、屋根から外壁へ一本の斜線を引く。すると同時に月面にも同じ線が現れ、世界は「見える/見えない」「増やせ/消せ」の息と動作でざわめく。二本目が一本目を“意味”に変えることを恐れ、わたしは濡れ布で地上の小さな落書きを拭き続けるが、月の線は消えない。人々は模倣し、祈りや憤りや儀式の兆しが立ちのぼる。わたしは一度だけ半歩延ばしてしまい、胸の拍がずれる。その不均衡を抱えたまま、増やすことをやめ、「受け、保ち、返す」身ぶりと消す練習に戻る。線はやがて騒ぎから分離し、背景となり、見え方の基準だけを残す。団子も芒も用意しない月見の夜、皿と水と布のあいだに呼吸の場所を置き、名を与えない責任を手放していく。消し跡だけが静かに濃くなり、月は遠く、線は近いまま、手を伸ばさないという礼が最後に選ばれる。

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エブリスタ2025/10/25
  • 現在の作品月に一本の線