あらすじ
冥府から人間界へ派遣された五羽のカラス――クロウ、カラ、モノ、ピコ、チビ。
彼らの使命は、まだ死ぬべきでない者を救い、悪しき者を冥府へ導くこと。
掟を守りながらも、五羽はそれぞれ異なる性格でしばしば衝突を繰り返す。
真面目なリーダーのクロウ、毒舌家のカラ、風を読むモノ、食いしん坊のピコ、そして情に厚いチビ。
冥府の王・エンマは、彼らを“冥府一万羽計画(黒羽降下)”の試験部隊として送り出す。
人間界に乱れる“命の線”を整え、秩序を取り戻すための試みだった。
救うべき人と裁くべき者――そのどちらも同じ夜に現れ、五羽は常に難しい選択を迫られる。
ある母親を救えば、別の命が危うくなる。
悪を罰すれば、善の流れが滞る。
それでも彼らは、風のように駆け、命をつなぐ瞬間を見つけ出していく。
やがて試験は成功し、一万羽の冥府カラスが世界各地に放たれる。
人々の善意が連鎖し、奇跡のような調和が訪れるが、やがて風は重くなり始めた。
“善意”が行き過ぎ、世界の流れが止まりつつあったのだ。
エンマは次なる段階――百萬羽の派遣を宣言する。
しかしクロウたちは、それが「秩序」ではなく「支配」になることを悟り、冥府へ戻る。
「風は誰のものでもない。人の選択に委ねるべきだ」――
クロウの言葉に、エンマは静かに頷く。
試験は終わり、百萬羽は再び眠りにつく。
風は人間のもとへ返され、世界は穏やかな朝を迎える。
冥府の空に、五羽の影が並んで飛ぶ。
それは黒い風のように、美しく、優しく、確かに世界を包んでいた。
――『冥府の黒い風』。
命と死の境を越えて吹く、静かな希望の物語。